目次
第1 歯科医院の法務について
1 歯科経営にまつわるトラブルの増加傾向
(1)クレームの急増
各種メディアの影響などにより、「物言う患者」(中には「クレーマー」も含まれます。)が急増したこと、患者側の権利意識の高まりとともに、患者側が歯科医師に対して疑問を持ちやすくなってきており、その疑問をクレームという形で表現しやすくなっている傾向があります。
歯科医療事故は、死亡等の重篤な結果をもたらすことが少ないため、医療事件の中では比較的軽視されてきましたが、その反面、痛みが継続することや、見た目に関連することから、真実の解明や、損失の補填というよりも、歯科医師に対する怨恨を晴らすことが目的となりやすく、クレームは、長期化、深刻化する傾向があります。
クレーマーの問題に類似するものとして、精神疾患のある患者のみならず、性格的に問題があると思われる患者の問題があります。また、例えば、まれに顎関節症の患者が、顎関節症による違和感によって精神的におかしくなるといった事例もあります。このような患者に対する対処の方法を間違えたために、業務中に大きな声で抗議に来たり、近所にビラをまかれるといった業務妨害行為が繰り返された事例もあります。
(2)クレーマーとなりそうな患者の特徴
・熱心すぎるくらいに説明を求める。しかも治療結果の保証を要求する。
・メモを細かすぎるくらいに取る。
・外貌に自信がある、又は外貌を非常に気にしている。
・医師の治療を受ければ必ず完治すると考えている。
というような特徴があります。
なるべく早期の段階で、これらのクレーマートラブルを予防する体制を整備しておき、実際にトラブルが発生してしまった場合にも早急な対応をできるような体制を構築しておくことが必要です。
2 患者との間のトラブルの発生
以下において、患者との各種の典型的なトラブルを時点ごとに紹介します。これらはあくまで代表的な典型例にすぎず、実際のトラブルの事例はこれらにとどまらず、様々なものが起こりえます。
(1)予約時
ア 応召義務の問題
歯科医師は、どのような場合でも、いつでも診療をしなくてはならないのかという問題であり、歯科医師法19条及び厚生労働省通達に関する問題です。歯科医師がクレームトラブルに巻き込まれるケースとしてしばしば問題となります。
イ クレーマートラブル
トラブルを起こしやすい患者の傾向として以下の特徴が挙げられます。
❶リスクを受け入れない
歯科医師が治療に伴う危険性を説明しても、それを受け入れようとしない患者は、どれだけ説明した上で診療を進めても、結果に不具合が出た場合(医学的に問題が無くても主観的に嫌だと思った場合を含みます。)にはクレーマートラブルに発展します。
❷一方的に話し、歯科医の話を聞かない。
そもそも歯科医師と患者との間のコミュニケーションが成立していないため、診療を進めても、そんなことは聞いていなかった等というクレームをつけてくるケースが極めて多く見られます。
❸医療への要求水準が極端に高い
医療に不可能がないということはありえません。歯科医師は、診療にあたり、どのような場合においても完治の結果を保証する義務を負うものではありません。歯科医師の治療を受ければ必ず完治すると思い込んでいる患者がおり、クレーマートラブルに発展するケースの1つです。
❹他の医院の悪口を言う
他の医院でトラブルになったことの原因は、もちろん前の医院が悪かった場合もありえますが、次の医院でもトラブルとなる可能性があることは否定できません。前の医院とトラブルとなったことを告げるにとどまらず、平然と前の医院の悪口を言う場合、クレーマートラブルを起こしやすい人物である可能性が高いと見ざるをえません。
❺思い込みが激しい
自分の症状について治療方針を一方的に指示したり、それで良いのかと執拗に確認するタイプの患者です。病的な人物も含まれます。治療方針についてインターネットで調べた知識で口出しをしてきたり、医学的知識があることをアピールしながら過度に医療従事者と密接な関係になろうとする場合等には、注意が必要となります。
❻威圧的な態度や、暴言を吐く
診療にあたりナーバスになっているというのとは全く異なり、歯科医師に対して何かと威圧的な態度をとったり、暴言を吐いたりするタイプの患者です。歯科医師との信頼関係を築くことは極めて困難であり、診療を続けてもクレームトラブルは避けられないことがほとんどでしょう。
上記の❶ないし❻のようなケースに遭遇した場合の対応策として、スタッフと申し合わせをし、対応を慎重にする、診療中の会話を録音する(違法ではありません)、カルテへの記載を詳細にするという方法が挙げられます。
顧問弁護士との間で、トラブルが生じる前の平時の段階で、具体的なケースごとに、トラブルシューティングのマニュアルを作成・構築しておくことや、トラブル発生時に早期に連絡を取れる体制を構築しておくことが有益です。
(2)検査時
例えば、医師法に係る問題として、歯科医師と衛生士の役割分担の問題があります。
(3)治療方針の検討時
治療方針につき、患者の希望を優先させるべきかという問題があります。歯科医師としての専門的、適切な治療方針から逸脱しているにもかかわらず、患者が不合理な内容の方針に固執する場合には診療を拒否することができます。
患者の中には、治療方針についても強い希望を持つ方がいらっしゃいます。患者の希望が適切な治療方針の中の範囲にある場合には、メリットデメリット双方の十分な説明をした後でも、患者の希望が変わらないのであれば、患者の希望に沿うべきです。
しかし、中には歯科医が勧める適切な治療方針とは別の、しかも適切でない治療方針に固執し、デメリットを説明しても自分の希望通りに治療することを求める患者もいます。中には、治療方針が二転三転して決まらない患者の方もいます。
そのような場合には、デメリットを考慮して到底採用できない治療方針であることを伝え、他院の診療を勧め、他院での診療にも応じない場合には、患者の固執する治療方針により患者の健康が害されることを理由に診療を拒否することが許されるでしょう。
ただし、診療を拒否するには応招義務との関係で正当な理由が必要で、それを医師の方で立証しなければなりません。カルテに患者に対して再三治療方針について説明し、他院での診療を勧めたことを出来るだけ詳細に記載するなどの対応策が必要です。
顧問弁護士との間で、トラブルが生じる前の平時の段階で、トラブルシューティングのマニュアルを作成・構築しておくことや、トラブル発生時に早期に連絡を取れる体制を構築しておくことが有益です。
(4)治療方針の説明時
ア 説明義務
治療方針について何らの説明をしていない医師はいないと思われますが、訴訟において説明義務違反と判断される場合は医師の常識とは異なることが少なくありません。
とくに、歯科の分野は、治療方法選択の幅が広く、自由診療比率が高く、外貌への影響が大きいため、患者の自己決定権が広く認められることの裏返しとして、歯科医師の説明義務の範囲は多岐にわたると考えられています。
具体的には、病状、それに対する治療方法の概要のみならず、治療に用いられる材質や材料が多種に及ぶ場合には、その方法や材料、外貌への影響を含めた効果、治療に伴う副作用や危険性について説明を要します。さらに、各治療について自由診療も含めて治療費の説明も必要です。
歯科医院に対するクレームの中でも「十分な説明を受けていない」として説明義務違反を追及するものが非常に多いです。
顧問弁護士との間で、トラブルが生じる前の平時の段階で、具体的な複数のケースごとに、説明内容のカルテへの記載の程度、方針説明書の写しの交付の方法、同意書の交付の方法等といった対応策を十分に検討し、これらの方法や書面を作成しておくことや、トラブル発生時に早期に連絡を取れる体制を確立しておくことが有益です。
(5)患者の承諾
患者から出るクレームとして非常に多いものの一つとして、無承諾で治療されたというものがあります。
医師の患者に対する説明と承諾は表裏一体のものですが、いかに具体的・詳細な説明をしても、「理解していなかった」、「納得はしていなかった」とクレームになる場合もあるため、同意書の存在が必要となります。
そこで、手術、麻酔などの侵襲を与える診療行為については、後の立証を考えて、口頭ではなく、同意書をとる必要があります。また、侵襲行為を伴わな診療行為であり、包括的承諾で足りる場合には、問診票の記載が有効となる場合があります。
(6)治療行為時
医療ミス問題とその対応の問題です。
3 患者との間のトラブルの解決
(1)クレームの発生
歯科医師から弁護士に相談されると、弁護士は、報告を受けて患者に対する第一次対応のアドバイス、及び、患者に対して以後弁護士が窓口になることの連絡(受任通知)を行います。
(2)事実関係の調査
歯科医師から弁護士に対して、カルテのコピー、事実経過のレポートを作成したうえ、報告がされ、弁護士との打合せが行われます。弁護士は、事実経過及び医学的論点の把握を行います。
(3)事故原因、過失の検討
歯科医師側で文献の収集や他の医師の意見収集を行い、弁護士側で裁判例の調査を行います。
(4)患者への対応検討
歯科医師から弁護士に対して、患者の特性を伝え、弁護士は、患者の特性、事案の内容から、適切な方法での介入の検討を行います。
(5)交渉
弁護士が代理人として紛争解決に向けた交渉を行います。
(6)証拠保全
医療過誤訴訟の場合、証拠が医院側に偏在することから、証拠隠滅防止のために、患者側が証拠保全の申立てを行うことが多いです。
歯科医師が証拠保全の対応をするにあたり、弁護士が証拠保全の立会いとアドバイスを行います。
(7)調停・訴訟
歯科医師と弁護士が、患者側主張に対する反論作成のための打ち合わせをし、弁護士が調停・訴訟への対応・出頭を行います。
4 対患者トラブル以外の法律問題
(1)コンプライアンス
民法や労働法、刑法といった事業分野を問わずに問題となる法令にとどまらず、事業分野における、事業規制法(いわゆる業法)、行政官庁から出されるガイドライン、通達等に対しても適切に対応をしなければ、コンプライアンスの実現は図れないため、事業分野に応じて求められるコンプライアンスの実現をお手伝い致します。
(2)債権回収問題
→詳しくはこちら
例えば、貸したお金が返ってこない、代金を支払ってもらえないといった場合には、弁護士を通して債務者と交渉する方法や裁判手続を利用して強制的に回収する方法を検討する必要があります。債権回収は、権利があれば当然に全額回収できるという簡単な話ではなく、債務者の資力を調査し、債務者の性格、現状を把握した上で、回収費用に見合った、最も回収可能性の高いプランを立てる必要があります。
(3)労務問題
→詳しくはこちら
紛争を予防するためには、日々の労務管理を適切に処理することが必要ですが、どのように処理すべきか、判断が難しい場面も多いと思います。
例えば、就業規則は、労働契約の内容となる重要な書類です。就業規則の内容を適切に定めておけば、日々の労務管理がスムーズになり、紛争の予防につながります。紛争が発生してしまった場合でも、就業規則が整備されていれば、的確に対処しやすくなります。就業規則の制定や変更につき、敵時のサポートを致します。また、労働契約の運用に関して日常的に生じる問題につき、迅速にアドバイスを致します。
(4)事業承継問題
事業の経営者が避けられない問題として、自ら築いた事業を誰にどのように承継させるかという問題があります。例えば、いつかは子に承継させようと思っているが、どのような問題があり、具体的にどのような手続をとればよいのか分からず、不安に思われている方も多いのではないでしょうか。
お客様が抱える問題に即した、適切かつスムーズな事業承継のプランをご提供いたします。
(5)EAP(Employee Assistance Program)
労働契約法第5条に「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という労働者に対する安全配慮義務が明文化されたことに伴い、使用者側として、良好な職場環境整備と従業員の健康管理への配慮が益々要求されるようになっています。使用者様との法律顧問契約の一内容として、EAP(Employee Assistance Program)契約を含み、従業員の方々からの直接の法律相談に応じさせて頂きます。
(6)ご親族の法律問題
顧問法務の一環として、経営者様のご親族様が抱える法的問題へのサポートをさせていただきます。例えば、ご家族様が交通事故に遭われた、詐欺的な売買契約を締結させられてしまった、刑事事件に巻き込まれてしまったなど、多岐にわたる法的トラブルへの対応をさせていただきます。
第2 顧問契約のメリット
1 弁護士費用の割引サービス
2 迅速な対応の実現
一般に弁護士と法律相談をする場合、ホームページなどで法律事務所を探し、電話やメールで問い合わせ、日程調整をし、法律相談をするという流れになります。顧問契約締結により、このような煩雑な手続を踏まずに、顧問弁護士に電話やメールで直ちに相談できます。急を要する相談内容の場合、顧問契約を締結していない場合よりも優先した対応が可能です。
3 顧問様により適したアドバイスができます
顧問契約を締結していない弁護士に相談する場合、事業内容や組織構成等、相談内容と直接関係のない背景部分に多くの時間を割かれてしまいます。顧問弁護士は、顧問先の事情に精通しているので、トラブルや法律問題に対する直接的な解決方法を選択できます。
4 お気軽なご相談が可能
日々の業務でトラブルが懸念されたり、トラブルが発生した場合に、その問題が法律問題なのか、弁護士に相談する問題なのかの判断に迷うことがあると思われます。顧問契約中は、法律相談等各種サービスが無料となるため、相談すべきなのか少しでも迷った際は、お気軽にご相談いただくことが可能です。
5 法務コストの削減
法務担当者を設置するコストは非常に負担が大きいものとなります。日々の業務を行いながら、法務や総務についてまで行うことは極めて困難であり、本業への専念ができなくなることから、大きな足かせになります。
弁護士との顧問契約は、法務部門のアウトソーシングとして、法務部門の設置と同様のメリットがあります。
特に、紛争発生時には、顧問弁護士への活動依頼によって、時間と労力を大幅に節約することが可能です。
6 従業員やご親族様への福利厚生
顧問契約の範囲内として、役員・従業員様やそのご家族様の法律相談を無料とさせていただきます(相談内容が複雑な場合で相談時間が長時間に及ぶ場合は別途協議とさせていただきます)。
7 顧問弁護士としての外部表示可能
顧問弁護士が付いていることをアピールできると、取引先や顧客の信頼関係が増したり、違法請求などを牽制したりすることが可能です。
8 その他
既存の類型的な法的サービスの提供だけではなく、協議を重ね、柔軟な法的サービス提供をさせて頂きます。
第3 報酬体系(消費税別表示)
改定中